脳死の死生観、無関心、体制不備…日本の移植ドナー不足を考える
先日、移植時の拒絶反応について書きました。
そこで外科医の夫が残してくれたコメントが、内容が濃くて興味深かったので、「移植提供者(ドナー)不足の現状」という点を記事にまとめてみました。
日本は医療先進国であるにも関わらず、移植に関しては「アメリカより20年遅れている」と言われています。
日本臓器移植ネットワークの統計によると、2015年の日本の移植件数が日本315件に対し、アメリカは24980件。
人口比は1:2.5であるのに対し、移植件数はなんと約80倍もの差があります。
アメリカと比べて日本で移植がなかなか浸透しないのにはどんな理由があるのか、考えてみました。
臓器移植法が改正されるも…
日本では1997年に臓器移植法が施行。「脳死後の臓器移植は本人の書面での意思表示が必須」「家族の同意が必要」とするなど制限が多いものでした。当然、ほとんど適応となるドナーが現れませんでした。
その後、2010年7月に臓器移植法は改正されました。主な改正点は以下の2点です。
- 生前に本人が臓器提供の意思を表示している場合だけではなく、本人の意思が不明な場合も、家族の承諾があれば臓器提供できるように
- 15歳未満からの脳死後の臓器提供も可能に
要件は緩和されましたが、前述した通り、まだまだ移植ドナー数が伸び悩んでいるのが現状です。
脳死移植・心臓死移植・生体移植の違い
移植には大きく分けて3種類あります。
① 脳死移植②心停止後移植③生体移植です。
③の生体移植では、生きている方がドナーなので心臓や肺などは提供できません。また、摘出した分だけ提供者の臓器の働きは落ちてしまいます。
②の心停止後移植は移植できる臓器が限られています。膵臓や腎臓は可能ですが、心臓、肺、肝臓、小腸などは適用されません。
心停止後の臓器は血流が止まってしまうため、著しく状態が悪くなってしまうんだそうです。
①の脳死移植の場合はすべての臓器が移植可能です。血流も維持されているため、臓器の状態も良好に保たれています。
日本で多いのは「生体移植」ですが、現実に求められているのはこの「脳死ドナー」なんです。
「脳死は人の死か」の議論
なぜアメリカなどに比べて日本は脳死ドナーが少ないのか。
それは「臓器提供者側の考え方」と、「医療体制の不備」が関わっているように思います。
2010年の臓器移植法改正で「脳死は人の死である」という認識が一般的に広まりました。しかし、これに対して反対する人は今も一定数以上存在しています。
反対する理由は日本人の宗教や死生観が影響していると言われています。本人が臓器提供を希望していても家族の中に一人でも反対する人がいれば臓器提供をすることはできません。
移植への無関心
しかし、移植反対派以上に多い層が「無関心」ではないでしょうか。
日本臓器移植ネットワークが2014年に行った調査では、臓器提供の意思を免許証や保険証などに記入しているのは約1割程度に過ぎませんでした。
夫から聞いた話ですが、ある医師が大学でアンケートを取ったところ、医学部生ですらほとんどが意思表示の欄に無記入だったそうです。
医学に携わっている学生ですらそうなのだから、一般の方はなおさらでしょう。
アメリカでは「脳死が人の死である」という考え方が定着しています。
また、日常から寄付やボランティアをすることが普通なので、「死後に誰かのためになるなら」と臓器提供に関心を持つ人も多くいるようです。
これらの違いが移植件数に影響しているのではないでしょうか。
整わない移植医療の体制
そして深刻なのが移植に向けた医療体制がまだ十分に整備されていないことにあります。
脳死判定はすべての医師ができるわけではなく「脳死判定医」という資格が必要で、2人以上の医師が判定しなくてはありません。
小中規模の病院では脳死判定の実行すら難しい場合が多いのです。
また、痛みに対する反応を調べる項目もあるため、家族の同意を得られない場合もあります。
医療者にも「死亡を前提とした臓器提供の話を家族にしづらい」という日本人的な遠慮もあり、現場でなかなかスムーズに進行しないのが現状だそうです。
移植コーディネーターという職業
移植コーディネーターという職業があります。ドナーから提供された臓器が適切な受け手(レシピエント)に移植されるよう調整やあっせんをします。
ドナー家族への説明や意思決定の支援、臓器の搬送までを調整する役割があり、医師らの負担をやわらげます。また、移植を待つ患者へのサポートなど活動は幅広く、多くは看護師など医療系の資格を持った人です。
日本では移植コーディネーターとして活動しているひとはまだ100人にも満たないそうです。
しかし、「臓器提供をしてだれかの役に立ちたい」という善意の芽を生かすためには、今後重要な職業となるのではないでしょうか。
アメリカでは移植コーディネーターという職業は一般的だそう。
中には「移植提供を拒否した家族をコーディネーターが訴えた」という訴訟事例もあるそうで、権限の強さがうかがえますね。
さすが訴訟大国!
まずは関心を持とう
健康だと移植はまるで関係ない世界のことのように思えます。しかし、不慮の事故や突然の病により自身や家族が当事者になるかもしれません。
私たちににできることはまず関心を持つこと。移植に賛成でも反対でもかまいません。免許証や保険証を裏返して、臓器提供の意思表示をしっかり書面で残しておきましょう。
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