難病ALSと父③医療過疎の現状。在宅介護続けるために転居
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に侵された父の在宅介護を決めた我が家。
しかし、青森県の小さな町にある実家での介護は「医療過疎」という問題が重くのしかかりました。
結局、住み慣れた実家を離れて近隣都市に引っ越すことを決断。それでも十分な医療体制とは言えず、もっと大きな都市への引っ越しを検討することもありました。
今回は、自分たちが患者になってみて痛感した「医療の地域格差」をまとめました。
訪問診療できる医療機関が不足
自ら病院に出向き受診することができないALS患者は、医師が家を訪ねる「訪問診療」や「往診」というスタイルを取ります。
「訪問診療」は症状に合わせて計画的に医師が患者宅を訪れ診療すること。「往診」は体調の変化などがあった時、要請に応じて医師が出向いて診療することを言います。
医療過疎の地域では、まず訪問診療や往診をしてくれる病院や医療機関が多くはありません。さらに管理が難しい「人工呼吸器がついている」という点で断られてしまうこともあります。
私の実家があるのは人口2万人弱の町ですが、訪問診療を受け入れていたのは一つの個人医院のみ。病状が進むにつれてその医院にも「もう診ることができない」と診察を断られてしまいました。
そうなると選択肢は2つ。「入院する」もしくは「引っ越して在宅介護を続ける」のどちらかを選ばなくてはなりません。
在宅介護を続けるため引っ越し
我が家は「家で暮らしたい」という父の強い希望もあり、引っ越すことを決めました。実家から車で約40分ほどの隣市にある親せき宅を間借りして父、母、兄の3人で暮らすことになりました。
この転居には正直、かなりお金がかかりました。部屋をバリアフリーに改装したり、防寒用に二重窓にしたり、新たにエアコンを取り付けたりといった費用は当然ながら自分たちで負担します。
親戚のご厚意で家賃は取らずにいてくれましたが、一般の賃貸住宅に入居した場合はさらに出費がかさみます。
自力で「在宅介護ができる環境」を整えること自体がとても大変でしたが、ここがやっとスタート地点です。
転居後の医療体制も…
引っ越し先の隣市では、総合病院に在籍する神経内科の医師が4週間に一度、訪問診療に来ました。
プラスで訪問診療・往診専門のクリニックから医師も4週間に1度診察に来ていたので、医師の診察は2週間に1度ということになります。
訪問看護師は週に3度、簡単なメディカルチェックに来ました。
マンパワー不足
転居前の医療環境に比べれば充実していますが、それでもやはり問題点はありました。絶対的なマンパワー不足です。
父がかかっていたのは地方随一の大きな総合病院でしたが神経内科の常勤医は2、3人しかいませんでした。
中でもALSなど在宅介護が必要な患者を訪問診療している医師はたった1人。
一人一人の患者には手が回らないような印象で、不調を訴えても対処が遅れることがしばしば。急な往診には当然応じられず、家族としては歯がゆい思いでした。
どうしても体調がすぐれない時、患者側で介護タクシーを手配して病院に運んだこともありました。
父が脳出血を発症する前、発熱や皮下出血などの兆候があったのに「医師が忙しい」という理由で検査が先延ばしになってしまいました。
結果的には医療者の人手不足が父の死期を早める原因になったのではないかと悔やまれます。
医療機器の遅れ
我が家は「父にとってより良い環境はどんなものか」と常に模索していました。
東北地方の中でも医療制度が充実している仙台市まで出向き、ALS患者さんの自宅を見学させてもらったこともあります。
その際に衝撃を受けたのが使っている医療機器の性能の違い。特に人工呼吸器は雲泥の差でした。
青森県に住む父が当初使っていた機器は呼吸のたびに空気が漏れるような大きな音がしました。それに比べて、仙台市の患者さんが使っていた新しいタイプの機器はほぼ無音に近かったのです。
なぜ父は新しく快適な機器を使えなかったのか?それはかかりつけの病院が「今まで使ったことがないから」という理由でした。
たしかに新しい医療機器を取り入れることはコストもかかりますし、操作方法も新しく覚えなくてはならず煩雑です。
それでも患者や家族は少しでも良い環境を求めています。医療過疎の地域ではその要望にすぐに対応できないのが実情なのです。
24時間、大きな音を耳元で聞かなくてはならない患者さんのストレスははかり知れません。
父も人工呼吸器の音には常に悩んでいました。苦肉の策として自身と呼吸器の間にベニヤ板を立ててバスタオルをかけることで少しでも音を和らげようとしていました。
在宅介護生活の後半でやっと新タイプの静かな人工呼吸器を使えることになり、父は本当に喜んでいました。
こういった医療機器の性能の違いが生活の質を大きく変えるのだと実感しました。
訪問ヘルパーの質と量
訪問ヘルパーの存在は患者の衛生面を守る上で欠かせません。体の清拭、着替え、ひげそり、歯磨き、体位変換、四肢のマッサージなど家族だけではできないことをサポートしてくれます。
以前の記事「ALSと父②」でも紹介しましたが、自治体によってヘルパーに来てもらえる時間と内容が大きく異なります。
我が家が住んでいた市では1日3時間半が上限でした。一方で医療体制が充実している仙台市ではほぼ24時間、ヘルパー派遣が可能になっていました。
また、痰の吸引ができる「喀痰吸引等第3号研修」を受けたヘルパーを派遣している事業者は青森県には一つもありませんが、仙台市には複数ありました。
ヘルパーの質と量の違いは家族の負担を大きく変えます。
住む場所も患者自身で選択を
およそ6年間にわたる在宅介護の中では、よりよい環境を求めて大都市に引っ越しを検討したこともありました。
在宅介護の経験を伺った患者さんの中には、実際に医療へき地から大きな自治体に引っ越した方も複数いました。それだけ本気で「在宅介護を続けたい」と思ってらしたのでしょう。
しかし父はかたくなに「生まれ育った地元を離れたくない」と言っており、家族もその意見を尊重していました。父が亡くなるまでその願いは叶えることができました。
どんな選択肢にしても、患者と家族で考えて納得することが大切です。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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