難病ALSと父②地域格差、家族の負担…在宅介護に立ちはだかる壁
難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)が進行して介護の必要性が出てくると、患者や家族は大きな決断を迫られます。
「病院に入院するか」それとも「在宅で介護するか」という選択です。
父の本格的な在宅介護が始まった時、介護保険の分類でいうと「要介護5」で寝たきりの状態。人工呼吸器と胃ろうが付いていて、四肢はまったく動かせませんでした。
かろうじて顔の筋肉が少し動いたので、まばたきをしたり、口を動かしたりしてわずかに意思疎通を図っていました。
我が家はこの状態の父を迎え入れて在宅介護がスタートしましたが、その道のりは想像以上に苦労の連続。
家族にとっては体力的につらいのはもちろんのこと、介護制度の複雑さや自治体の対応にも疲弊することがしばしばありました。
今回は「在宅介護」を体験して感じた問題点などをまとめました。
入院より難しい在宅介護
誤嚥性肺炎で緊急搬送され、人工呼吸器と胃ろうを造設することになった父。今後の処遇について医師が強く勧めたのが「療養型の病院への転院」でした。
確かにそのほうが医療側も家族も圧倒的に楽なのです。在宅介護を希望していても物理的に無理で、入院せざるを得ない方も多くいると思います。
在宅介護をする上での問題点を項目ごとにまとめました。
後述していますが「在宅介護のしやすさ」は自治体によって大きく異なりますのであくまで我が家の経験から感じたことです。
① 支援制度の地域格差
ALS患者が入院した場合、使うのは主に「医療保険」です。一方で在宅介護の場合、「医療保険」「介護保険」「障害福祉サービス(重度訪問介護)」という3種類をフル活用します。
介護保険は在宅でのヘルパー派遣、訪問入浴、理学療法士派遣などに使うことができます。
障害福祉サービスは介護だけではなく就労支援や居住支援など訓練も幅広く行う訪問介護費の支給制度です。その中でも「重度訪問介護」を利用します。
厚生労働省のHPで詳しく説明しています。
重度の肢体不自由者又は重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者であって常時介護を要するものにつき、居宅において入浴、排せつ及び食事等の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の生活全般にわたる援助並びに外出時における移動中の介護を総合的に行うとともに、病院等に入院又は入所している障害者に対して意思疎通の支援その他の支援を行います。
【対象者】
障害支援区分が区分4以上(病院等に入院又は入所中に利用する場合は区分6であって、入院又は入所前から重度訪問介護を利用していた者)であって、次のいずれかに該当する者
1 次のいずれにも該当する者
(1) 二肢以上に麻痺等があること
(2) 障害支援区分の認定調査項目のうち「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれも「支援が不要」以外と認定されていること
2 障害支援区分の認定調査項目のうち行動関連項目等(12項目)の合計点数が10点以上である者
※平成18年9月末日現在において日常生活支援の支給決定を受けている者に係る緩和要件あり。出典:厚生労働省HP
自治体で差がある「重度訪問介護」
この「重度訪問介護」は自治体ごとに上限を決めるので、大きな差があります。例えば父が住んでいた市では一日の上限2時間でヘルパーを派遣できました。
介護保険のヘルパー派遣1時間半と合わせて、1日計3時間半のサポートを受けることができましたが、そのほかの生活支援は家族が行わなければなりません。
一方、支援体制が充実していると言われる自治体ではほぼ24時間ヘルパーを派遣することが可能。中には家族が「介護ノータッチ」を実現していたり、1人暮らしをしている者さんもいるんだそうです。
患者さんの中には、より良い介護環境を求めて引っ越す方も多くいます。
特定疾病の介護保険は40歳から
介護保険は、一般的には「65歳以上」から受給資格が発生します。
しかしALSなど一部の特定疾病が原因で要介護・要支援状態になった場合は「40歳になった月」から受給できるそうです。
どんな特定疾病が当てはまるかなど厚生労働省の資料で分かりやすくまとめています。
当てはまる方はぜひ忘れずに申請してくださいね。
② 家族の負担が大きい
私の家では、60代の母と30代の兄が2人体制で専属で介護をしていましたが、それでやっと成り立っている状況でした。
人工呼吸器がある場合、定期的に痰吸引が必要になります。痰の吸引は「医療行為」とみなされるので、医師や看護師など医療資格を持つ者もしくは家族が行わなければなりません。
ヘルパーでも「喀痰吸引等第3号研修」という研修を受ければ痰吸引が可能ですが、青森県にはこの痰吸引ができるヘルパーを派遣している事業所はひとつもありませんでした。
ということは、ヘルパーが来てくれている間も家族が痰吸引に備えて待機していなくてはなりません。
実際にはヘルパーと一緒に家族が体位変換を手伝ったり、コミュニケーションが取りづらい父のそばで通訳のような役割をしていたので、体を休める時間にはなりませんでした。
心から息抜きができるのはレスパイト(「休息」を意味します)という名目で月2回、看護師が滞在してくれる数時間だけです。
家族が少し買い物に出たり、入浴や家事をしたり、休憩したり…ということを考えるとやはり最低2人は専属で介護の人手が必要になります。
痰吸引や唾液の吸引も患者さんの体調が悪いと回数が増えて、1日に数十回に及ぶこともあります。夜に何度も起こされることもあります。
肉体的にも精神的にも家族にダメージが蓄積していきます。
③ 手続きの煩雑さ
高額療養費の還付手続きなどの各種手続きは家族自身で申請する場合がありました。
山のような領収書などをまとめて、書類に記入して、それを提出して…という作業は思った以上に大変です。
窓口が一本化されているわけではなく、制度ごとに市町村役所だったり保健所だったり、申請場所が違うこともあるので煩雑です。
在宅介護の手続きは自治体ごとに異なるので、自分達で調べて行わなければなりません。
「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ!」と行き当たりばったりになることもしばしば。しばらく知らないままに申請していなかった書類などもあるそうです。
そこらへんは担当の介護支援専門員(ケアマネージャー)の手腕にかかってくるので、運次第という一面もあります。
ただ、参考になる書籍は多くあります。例えば日本ALS協会が発行している出版物は保険手続きや在宅介護のALSに特化した情報をまとめています。
協会員になると1冊無料でもらえるので、興味がある方はぜひ読んでください。
在宅でも入院でも自分らしく
在宅介護を始める前から「大変だろうな」と予想していましたが、始まってみると「こんなにも大変なのか!」と改めて思いました。
ALSの場合は、何年介護が続くか分かりません。日ごとに病状が進み、絶望感に押しつぶされそうな時もあります。
それでも在宅介護を選んだのは「家にいなきゃ生きてる意味がない」という父の言葉があったから。
支援体制にさまざまな不満を書いてしまいましたが、日本の手厚い介護制度には本当に感謝しています。父1人に莫大な医療費と介護費がかかっていたことは間違いありません。
我が家は父が頑張って築き上げた不動産収入で経済的に余裕があり、兄が仕事を退職してまで介護に徹してくれたり、と何とかギリギリ在宅で見ることができました。
「家で暮らしたい」という気持ちがあっても断念せざるを得ない患者さんや家族の気持ちを思うと、やりきれなくなります。
しかしどんな環境でも「自分らしく生きる」ということだけはあきらめず誇りを持ってほしいです。自分の価値は自分自身が決めるものだと信じています!
長文をお読みいただきありがとうございました。
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