難病ALSと父④意思伝達装置「マイトビー」青森初の公費助成への道
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者と家族が絶対に確保しなくてはならないのが「意思伝達装置」。
気管切開をして声が出なくなると、家族や介護者と意思疎通がなかなかうまくできずお互いにストレスを感じてしまいます。
進行性の病気なので、病状を先回りしてコミュニケーションツールを用意することが患者や家族の生活の質向上につながります。
そして患者にとってベストなツールを使うために、時には行政を動かさなくてはならない場合もあるのです。
ALS患者である私の父は「マイトビー」という視線入力式の意思伝達装置を、青森県で初めて公費助成で使うことができました。
「前例がない」ということでなかなか話が進まず、申請から半年を費やしてやっと認可までこぎつけました。
患者と家族が自ら立ち上がることで、前例を作ることができたのです!マイトビーが我が家に来るまでの経緯を2回に分けて紹介します。
コミュニケーションツールの変遷
気管切開をした後に在宅介護をしていた父は、病状の進行に合わせてさまざまなツールを使っていました。
介護者を呼ぶとき…指の力が衰えてボタン式のブザーが押せなくなると、空気圧で押すエアバックタイプのブザーで家族を呼びました。息を吹きかけることでブザーが鳴る「ブレスコール」も使っていました。
意思を伝える時…口の動きを読み取ったり、文字盤を使っていました。文字盤は透明なプラスチックの板に50音を書いておいて、患者の目線が何の文字を見ているかを読み取ります。「YES」「NO」はまばたきで伝えることができました。
しかし病状が進行して口を動かしたり、微妙な視線の動きを読み取るのが難しくなり意思疎通が図りづらくなってきました。
父はもちろんストレスが溜まりますし、いらだちをぶつけられる家族も不満がたまり悪循環になってしまいます。
先回りしてツールを検討しよう
そのように病状が悪化するよりもずっと前に、新たなコミュニケーションツールを検討していたのが兄です。我が家は母と兄が専属で在宅介護をしていました。
ALSは「昨日できたことが今日できない」という恐れがある病気です。ある日、何も伝えられなくなってしまうかもしれないのです。
病状が今後どうなっていくか想像するのはとても辛いことです。しかし、最悪の事態を想定した上で、先回りして意思伝達のツールを確保していくことが自身の生活を確保することにつながります。
我が家も実際にマイトビーを申請してから認可までは半年ほどでしたが、検討期間も考えると1年半くらいの時間を費やしています。
青森でも実績のある「伝の心」
当時、青森県でALS患者が使うツールに「伝の心(でんのしん)」という機器がありました。
体の一部をわずかに動かすだけで、センサーを通じて文章を打ち込んだり、インターネットを操作します。まばたきなど微細な筋肉の動きでも操作できます。
初めは「伝の心」の使用を検討してデモ機を試しました。しかし、機器の操作にコツが必要なことに加え、父の病状の進み具合を見ると「いずれ使えなくなるかも」という心配がありました。
視線入力式「マイトビー」とは
そこで情報収集をするうちにたどり着いたのが視線入力式の「マイトビー」です。機械が視線を読み取り、まるでマウスのように画面を動かすことができます。
文章の入力や読み上げ、メールの送受信、インターネットのほか、設定すればテレビやエアコンと連動させてスイッチを入れたりもできるそうです。
しかしネックになるのはその価格。本体に設置費用や付属のスタンドなど合わせると150万円近くになってしまい、なかなか手が出るものではありません。
「無理をすれば買えなくはないし、自腹で買えば手っ取り早い。でも、他の患者さんのためにも公費助成で使うことに意味があるのではないか」
兄はそんな風に考えて、申請に乗り出したそうです。
補装具と特例補装具
意思伝達装置は「補装具」と呼ばれます。国の補装具支給制度では、障害がある方が日常生活を送るために必要と認められれば上限45万円までの機器が助成されるのです。
市町村が申請窓口から判定まで行います。青森県でも「伝の心」は上記の補装具支給制度の実績がありました。
ところが「マイトビー」のように高額な機器は「特例補装具」として申請します。申請は市町村が請け負い、判定は県障害者相談センターで判定を行います。
ハードルが高くなり簡単には認可が下りない可能性も。まずは書類をそろえるまでに苦労することになるのです。
次回は実際に行った申請手続きをご紹介します。最後まで読んでいただきありがとうございました!
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